第4回『テトテ✕コネクト』2021年(3)

最初にお知らせです。前回記事の一部に修正を入れました。情報が公知のものであるとの確認が取れたので、タイトーに開発のメインが移る前に開発の多くを担ったイニスジェイ社(現リオナ社。実績ページに本作の紹介あり)について追記しています。


では改めて、今回は『テトテ✕コネクト』の第3回目です。(第1回第2回


SiFi-TZKの役割とこだわり

開発に入る前、企画の立ち上げからプロデューサーを担当し、制作規模が縮小してからはディレクター兼任となりました。

最初のゲームフローとチュートリアル、協力・対戦モードの仕様は自分が直接切っています。また、キャラクター選択や着せ替えのUIについても最終的には自分がUI仕様を切り直しています。

 

本来のプロデューサー業務としては、プロジェクトの方向性決めや開発・楽曲などの契約、プロモーション計画、予算や開発人員の計画と管理、会社間の折衝やコラボ打診などなどを担当しました。

プロモーションでは、パートナーの設定資料や原画の公開はゲームがリリースされてある程度の期間を経てから、と考えていました。理由は、ゲーム内のキャラクターが定着する前に2Dの原画を紹介してしまうと、原画が「本物」で、ゲームに出てくるのは「よく似たその人形」と認識される恐れがありました。マンガやアニメのゲーム化では甘んじて受け入れるしかありませんが、原作のない本作では「ゲームに出てくるキャラこそが本物」としたかったため、プロモーションの担当者には(けっこう険悪になったり)ずいぶんご迷惑をおかけしました。

 

アートディレクターKN氏直筆の、アクセサリーの取り付け位置に関する検討資料

プロジェクトの本格開始にあたっては、「(ダンスではなく)体を動かす音ゲー」「常にパートナーと一緒に選択しているか」「雑多さは多様性」「ゲームセンターの環境に置かれることをいつも意識」などを憲章として制定しました。現在は有名無実化していると思いますが、これを最初に決めたおかげで何度もの大きなアクシデントにも関わらず、なんとか制作当初目指したゲームにたどり着けたと思っています。

 

ポーズとカメラ周りの話

痛恨の「ポーズ」仕様も元々の企画原案にはなく、自分が追加したものです。意図としては、接近してタッチするだけのゲームでは「大きいスマホゲー」と変わらない、と思われてしまう危惧が企画当初からあり、また、ゲーム筐体から一旦離れるタイミングを作ることで、「プレイの単調さ、息苦しさを緩和する」という目論見もありました。(実際にプレイすれば、ここまで大きさが違えば「体験」としてスマホゲーとは別物である、ということが即座に体得できるのですが)

この仕様はおもにオペレーターからの不評と、カメラと画像AIを用いたポーズ判定の認識精度が実用レベルに達していなかったことから、断念せざるを得ませんでした。

 

youtu.be

※ポーズがあった頃のプレイ動画


筐体に装備されたカメラは元々このポーズ仕様のためにあったのですが、製品版ではプレイヤーの身長把握(デフォルト値として使用)と頭の位置(パートナーがプレイヤーを見る目線制御)としてのみ使われています。カメラを外せば筐体価格をもっと下げられたのでは?と最後まで突き上げられたのはなかなかのトラウマでした。

カメラが残ったことで、ゲーム内ではなくメニュー画面で「プレイヤーがポーズを取るとキャラクターも同じポーズを取る」といった使い方をすることも想定していました。バーチャルキャラクターとのコミュニケーションとして「身振り手振り」を使う手段はまだ開拓されておらず、今後化ける芽がある、と自分はまだ考えています。

 

ちなみに、身長取得も目線制御(自分が過去参加していた『ソウルキャリバーII』(2003年)をヒントにしています)も自分が言い出して入れてもらった仕様なのですが、リリース後一ヶ月くらいでふとした時に「あれ、コレもしかして自分のこと見てる…?」となることを想定していたものです。ですが実際には、リリース当日に気づいた人が数多くいたようで、開発が考えるよりずっとプレイヤーはゲームをよく見ている、と改めて思い知らされることになりました。

 

譜面とダンスモーション

ゲームの開発当初から譜面とダンスモーションとの両立は問題でした。楽曲の追加を続ければ、譜面の高度化を求められることもわかっています。開発当初に振り付けをお願いしていたJAM TRUMPさんのダンスモーションクオリティが高く、譜面とダンスモーションの両立に、高難度化も含めて考えると、早晩クオリティが維持できなくなることが想定されました。

そのため、何度かの試行錯誤の結果、以下のような考え方で進めることを考えていました(現行のプロジェクト体制とは異なる)

  • 「振付優先」楽曲2割、「譜面優先」楽曲8割、の割合で制作する
  • 振付優先の場合は、まず振付を発注し、キャプチャしたモーションにあとから譜面を合わせる
  • 譜面優先は社内のモーション担当者と相談しながら譜面を作り、振付はモーション担当者が(過去モーションを流用しつつ)手付け
  • 譜面、モーション担当者にダンスレッスンを受けさせてもう
  • 完成した振付優先楽曲の難易度を確認し、足りない難易度を譜面優先楽曲で埋める

歌でも作詞優先と作曲優先があるように、音ゲーにも譜面優先と振付優先が混在してもいいはず、となかば自己暗示のように考えていました。

この方式のメリットは、常に高いダンスクオリティの楽曲を定期的に出しつつ、狙った難易度の楽曲も常に提供できること、デメリットとしては、楽曲によって質にバラつきが出ることと、特に初期においては譜面優先楽曲のダンスクオリティが落ちることです。

このデメリットに関しては、「うちはスクエニじゃないのでクオリティより楽しさ優先!」で押し切るつもりでした。当時は、「親会社スクウェアエニックスブランドではクオリティ的に出せないものでもタイトーブランドなら出せる」ことこそを強みとするべき、と考えており、また、この体制で量産することで、(常に振付優先楽曲のモーションを手本にして)モーション担当者にノウハウが蓄積され、譜面優先楽曲のダンスクオリティが上がっていくことを見越しての判断でもありました。

ちなみに、譜面制作自体は様々な試行錯誤を経て、最終的にはオリジナルの譜面制作ツールで作成しています。このツールは実機でも動作するスグレモノで、おかげで譜面制作スタッフにものびのびとクリエイティブを発揮してもらえ、譜面優先ならではの奇抜な発想を具現化しえた、と思っています。

振付のモーションキャプチャーで使用した筐体モックアップ(Gentle Giant小林氏提供)

 

マルチプレイ(協力・対戦)モードの仕様

マルチプレイモードは、言語選択設定と並んで開発最後期に追加されることになった仕様となります。

パートナーとプレイするゲームなのにマルチプレイ?と最初は方向性を考えあぐねていましたが、社交ダンスなどはそもそも同時にいくつものペアが踊るものですし、またミュージカル映画の名作『ウエスト・サイド物語』(1961年)でも「集団vs集団」のダンス対決が描かれています。であれば、せっかく面倒な通信仕様を入れるなら、テトコネならではのマルチプレイ体験を入れたい、と考えて現行の「チームプレイ」と「チーム対戦」の仕様を切りました。P2Pでの対戦仕様をゼロから切るのは、これも20年前の『おじゃる丸 月夜が池のたからもの』(2000年)以来だったかもしれません。

 

協力プレイ(チームプレイ)では、通常1コイン3曲なのが、上手く協力できれば1曲多くプレイできるので、それ目当てに現行プレイヤーが新たなプレイヤーを連れて来てくれるのでは、という目論見もありました。対戦プレイでは3曲固定(勝った側にブーストチケット)なのは、負けた側にマルチプレイのホストがあった場合のホスト委譲仕様を入れる余裕(とバグの可能性)が開発になかったためです。

 

マルチプレイでの楽曲の選択は悩みどころでした。マルチプレイのホストが選ぶ形の実装が一番ラクではありますが、面白みも何もないし、特にまだあまり親しくないグループでは、誰か一人が決定することで感情的なしこりが生じる恐れすらあります。

結果的に、元の楽曲選択UIを活かす形で、全員が楽曲を選び、そこからゲーム側がプレイする曲を決定する、という流れにしました。これなら公平ですし、「どの曲に決まるんだろう!?」というワクワク感がマルチプレイ特有の面白さとしてプラスされます。ちなみに、曲が決まるときの演出は往年のTV番組『ザ・ベストテン』オマージュです。

「プレイするのが恥ずかしい」と言われ続けた本作ですが、マルチプレイはその意識を多少なりとも緩和してくれるのでは、という意図もありました。実際、ゲームセンターでマルチプレイを楽しむプレイヤーを見かけると、苦労してこの仕様を入れて良かったな…と思います。