第3回『テトテ✕コネクト』2021年(2)
今回は『テトテ✕コネクト』の第2回目です。前回はこちら。
開発体制・期間
前回リンクしたラジオでもお話したことですが、2018年当時のタイトーはそれまでメインだった「他社開発タイトルを買ってきて売る」ビジネスから脱却し、自社開発に大きく舵を切る、大規模な方針転換の只中にありました(その後、この方針は撤回されてしまうのですが)。
本作『テトテ✕コネクト』登場以前の『おまつりクエスト ヒッパレQ』(2019年)がその新体制から生み出された第一弾で、アーケード部門を新たに率いたのが『ビートマニア』(1997年)『クイズマジックアカデミー』(2003年)の生みの親として知られる濱野隆氏です。
JAEPO2019『ヒッパレQ』イベント時の濱野氏(4gamerより)
濱野氏は本作開発途中で事情により降板してしまうのですが、初プロデューサーであった筆者はずいぶん氏に助けられた覚えがあります。
そのような機運もあり、「業界にタイトーあり」と改めて認知してもらえるような、「オールタイトー」を目指して本作の制作は行われました。前回掲載した、店舗スタッフとの協業などもそのポリシーの具体例でもあります。既存の音ゲーのアーケード版を作る無難な選択肢もありましたが、店舗スタッフとの協議により導かれた「より体を動かす」コンセプトにそぐわず、より独自色の強い本タイトルに賭けることになります。
本作は開発期間約4年と長期に渡るため、ソフトウェアの開発体制は何度か変わっています。初期は東新宿のタイトー本社および中目黒にあったイニスジェイ(現リオナ)社を中心として、多くの会社の協力を得て制作していましたが、開発末期はごく少数(企画・アートディレクター・プログラム・モーション・サウンド)の内部制作チーム+数人の個人外注スタッフで完成させています。
※2023/11/17イニスジェイ社について追記
ゲーム筐体の開発は東京・大塚のいちご大塚ビルにあった、機械・電気・筐体デザイン(ミクTのデザインもお願いしています)のスタッフからなるハードウェア制作チームが手掛けており、筆者も定例ミーティング等で週1,2回のペースで足を運んでいました。
ラジオでお話した「最大のピンチ」(実際の最大のピンチはその後に訪れているのですが)である「タッチパネルの端に手が引っかかる問題」は、彼らとパネルメーカーの創意工夫によって克服されています。
専用筐体の業務用ゲームはほとんどの場合、おもに生産スケジュールの関係から、ハードウェア開発がソフトウェア開発に先行します。
筐体は公開(本作の場合は2019年6月のお披露目時)までに意匠登録によってデザインの保護を行うのですが、2020年には中国企業によってさっそく海賊版が作られています。
タイトーで開発中の新作『テトテ☓コネクト』、リリース前に中国でコピーされて稼働しているらしい。
— 寺島壽久/ゲームキャストの中の人 (@gamecast_blog) 2020年1月20日
テトテのロケテ版の画像(ゴリラ)と比べると、ボタンの形までコピーしていてもう…。
中国のコピーを前にロケテすらできなくなるのか…? https://t.co/IH4AxhnOSQ pic.twitter.com/JMMAVk3snR
ロケテスト等の関係でスマホアプリのような「公開と同時に即販売」ができないアーケードゲームは、こういった海外企業の知的財産権の侵害に対して脆弱であることを強く感じる出来事でした。
ちなみに、その「テトコネ誕生の地」である大塚オフィスはその後移転したため現存しません。
テトテ✕コネクトのゲームデザイン
「より体を動かす音ゲー」として選定された本企画には、さらに前段階があり、実は「手と足を両方使うゲーム」として当初構想され、のちに足の部分がなくなり、手だけ使うゲームとして企画をまとめた、という経緯があったそうです。
これを見ると、本作は「手まで拡張したDDR」→「手でやるDDR」へと変遷したゲームであることがわかります。手を使うとしたことで筐体に接近してプレイすることになり「ペアダンス」のアナロジーを獲得、それにより「等身大のパートナー」という本作第2の特徴もなかば必然的に導かれたものではないかと思います。
プロジェクトがスタートして一ヶ月後には、鉄のアングルにモニターとスピーカーを固定したゲーム筐体の治具が完成、「等身大キャラが登場」「音楽に合わせてタッチサークルが各所に出現」するプロトタイプを大塚開発でプレイすることが早くも可能になりました。これは汎用ゲームエンジンが登場したからこそ可能なスピード感だと思います。
当時存在した数少ない縦型コンテンツであるPerfumeの縦画面PVなどをモニターに映すことで「等身大キャラ」の破壊力ははやくも開発スタッフや社内に周知された一方、プロトタイプをエアプレイできる(タッチパネルはまだない状態)ようになったことで、ゲーム部分にはいくつかの課題が見つかっています。
- プレイヤーの身長によって見える範囲がぜんぜん違う
- プレイヤーの手の長さ(身長にほぼ比例する)によってプレイ可能な距離が違う
- 上記の理由により、タッチサークルが見えずプレイできない
大画面にこれほど近づいてプレイするゲームは前代未聞ですが、筆者は本作の直前にVRゲームの企画を担当しており、解決すべきは「プレイヤーの視野角」と設定しました。
プレイヤーの視野をほとんど奪う本作は、VRゴーグルやドームスクリーンによる『機動戦士ガンダム 戦場の絆』(2006年)などと同じ、「超臨場感システム」の系列と言えるかと思います。超臨場感システムの研究にはその名前が付く前からの長い歴史があり、例えば、「画像が視野に占める割合と臨場感との関係」は、なんと1979年に以下の論文が発表されています。
画面サイズによる方向感覚誘導効果 ――大画面による臨場感の基礎実験――
こういった過去の知見を活用し、
- まずプレイヤーの身長を設定できるようにする
- 次に身長に応じた手の長さ(≒画面との距離)を仮定する
- もっとも近い(≒身長の低い)プレイヤーの視野角(個人差あり)を設定する
- タッチサークルなど、ゲームに必要な情報をその視野範囲内に収める
- 上記条件を満たす様々なノーツ出現方式を試してみる
- 開発メンバーがそれぞれの方式でプレイし、ミス率(≒見落とし率)が少ない方式を選抜
といった流れで製品版の仕様を決定しました。
この、「実際作ってデータを取り、そのデータによって決める」という手法は、本作ではキャラクターデザインなど至るところで実施しており、それによってオリジナルゲーム特有の独りよがりや完成度の低さを多少なりとも回避できたと考えています。
プロデューサーである筆者自らがゲームメカニクスに介入したのはこの部分がメインで、あとはプレイ開始までのゲームフロー、楽曲選択UI、あとから追加したマルチプレイや言語選択部分の仕様を手掛けています。
ゲームフローや楽曲選択時に注力したのは「なにごともパートナーと常に一緒に選択・行動する」ことで、例えばそれぞれ独自モーションで見せるステージへの移動シーン(楽曲選択兼用)などは最低限の自然な演出ながら、スタッフのこだわりによって最大限の効果を発揮しているのではないでしょうか。