第4回『テトテ✕コネクト』2021年(3)

最初にお知らせです。前回記事の一部に修正を入れました。情報が公知のものであるとの確認が取れたので、タイトーに開発のメインが移る前に開発の多くを担ったイニスジェイ社(現リオナ社。実績ページに本作の紹介あり)について追記しています。


では改めて、今回は『テトテ✕コネクト』の第3回目です。(第1回第2回


SiFi-TZKの役割とこだわり

開発に入る前、企画の立ち上げからプロデューサーを担当し、制作規模が縮小してからはディレクター兼任となりました。

最初のゲームフローとチュートリアル、協力・対戦モードの仕様は自分が直接切っています。また、キャラクター選択や着せ替えのUIについても最終的には自分がUI仕様を切り直しています。

 

本来のプロデューサー業務としては、プロジェクトの方向性決めや開発・楽曲などの契約、プロモーション計画、予算や開発人員の計画と管理、会社間の折衝やコラボ打診などなどを担当しました。

プロモーションでは、パートナーの設定資料や原画の公開はゲームがリリースされてある程度の期間を経てから、と考えていました。理由は、ゲーム内のキャラクターが定着する前に2Dの原画を紹介してしまうと、原画が「本物」で、ゲームに出てくるのは「よく似たその人形」と認識される恐れがありました。マンガやアニメのゲーム化では甘んじて受け入れるしかありませんが、原作のない本作では「ゲームに出てくるキャラこそが本物」としたかったため、プロモーションの担当者には(けっこう険悪になったり)ずいぶんご迷惑をおかけしました。

 

アートディレクターKN氏直筆の、アクセサリーの取り付け位置に関する検討資料

プロジェクトの本格開始にあたっては、「(ダンスではなく)体を動かす音ゲー」「常にパートナーと一緒に選択しているか」「雑多さは多様性」「ゲームセンターの環境に置かれることをいつも意識」などを憲章として制定しました。現在は有名無実化していると思いますが、これを最初に決めたおかげで何度もの大きなアクシデントにも関わらず、なんとか制作当初目指したゲームにたどり着けたと思っています。

 

ポーズとカメラ周りの話

痛恨の「ポーズ」仕様も元々の企画原案にはなく、自分が追加したものです。意図としては、接近してタッチするだけのゲームでは「大きいスマホゲー」と変わらない、と思われてしまう危惧が企画当初からあり、また、ゲーム筐体から一旦離れるタイミングを作ることで、「プレイの単調さ、息苦しさを緩和する」という目論見もありました。(実際にプレイすれば、ここまで大きさが違えば「体験」としてスマホゲーとは別物である、ということが即座に体得できるのですが)

この仕様はおもにオペレーターからの不評と、カメラと画像AIを用いたポーズ判定の認識精度が実用レベルに達していなかったことから、断念せざるを得ませんでした。

 

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※ポーズがあった頃のプレイ動画


筐体に装備されたカメラは元々このポーズ仕様のためにあったのですが、製品版ではプレイヤーの身長把握(デフォルト値として使用)と頭の位置(パートナーがプレイヤーを見る目線制御)としてのみ使われています。カメラを外せば筐体価格をもっと下げられたのでは?と最後まで突き上げられたのはなかなかのトラウマでした。

カメラが残ったことで、ゲーム内ではなくメニュー画面で「プレイヤーがポーズを取るとキャラクターも同じポーズを取る」といった使い方をすることも想定していました。バーチャルキャラクターとのコミュニケーションとして「身振り手振り」を使う手段はまだ開拓されておらず、今後化ける芽がある、と自分はまだ考えています。

 

ちなみに、身長取得も目線制御(自分が過去参加していた『ソウルキャリバーII』(2003年)をヒントにしています)も自分が言い出して入れてもらった仕様なのですが、リリース後一ヶ月くらいでふとした時に「あれ、コレもしかして自分のこと見てる…?」となることを想定していたものです。ですが実際には、リリース当日に気づいた人が数多くいたようで、開発が考えるよりずっとプレイヤーはゲームをよく見ている、と改めて思い知らされることになりました。

 

譜面とダンスモーション

ゲームの開発当初から譜面とダンスモーションとの両立は問題でした。楽曲の追加を続ければ、譜面の高度化を求められることもわかっています。開発当初に振り付けをお願いしていたJAM TRUMPさんのダンスモーションクオリティが高く、譜面とダンスモーションの両立に、高難度化も含めて考えると、早晩クオリティが維持できなくなることが想定されました。

そのため、何度かの試行錯誤の結果、以下のような考え方で進めることを考えていました(現行のプロジェクト体制とは異なる)

  • 「振付優先」楽曲2割、「譜面優先」楽曲8割、の割合で制作する
  • 振付優先の場合は、まず振付を発注し、キャプチャしたモーションにあとから譜面を合わせる
  • 譜面優先は社内のモーション担当者と相談しながら譜面を作り、振付はモーション担当者が(過去モーションを流用しつつ)手付け
  • 譜面、モーション担当者にダンスレッスンを受けさせてもう
  • 完成した振付優先楽曲の難易度を確認し、足りない難易度を譜面優先楽曲で埋める

歌でも作詞優先と作曲優先があるように、音ゲーにも譜面優先と振付優先が混在してもいいはず、となかば自己暗示のように考えていました。

この方式のメリットは、常に高いダンスクオリティの楽曲を定期的に出しつつ、狙った難易度の楽曲も常に提供できること、デメリットとしては、楽曲によって質にバラつきが出ることと、特に初期においては譜面優先楽曲のダンスクオリティが落ちることです。

このデメリットに関しては、「うちはスクエニじゃないのでクオリティより楽しさ優先!」で押し切るつもりでした。当時は、「親会社スクウェアエニックスブランドではクオリティ的に出せないものでもタイトーブランドなら出せる」ことこそを強みとするべき、と考えており、また、この体制で量産することで、(常に振付優先楽曲のモーションを手本にして)モーション担当者にノウハウが蓄積され、譜面優先楽曲のダンスクオリティが上がっていくことを見越しての判断でもありました。

ちなみに、譜面制作自体は様々な試行錯誤を経て、最終的にはオリジナルの譜面制作ツールで作成しています。このツールは実機でも動作するスグレモノで、おかげで譜面制作スタッフにものびのびとクリエイティブを発揮してもらえ、譜面優先ならではの奇抜な発想を具現化しえた、と思っています。

振付のモーションキャプチャーで使用した筐体モックアップ(Gentle Giant小林氏提供)

 

マルチプレイ(協力・対戦)モードの仕様

マルチプレイモードは、言語選択設定と並んで開発最後期に追加されることになった仕様となります。

パートナーとプレイするゲームなのにマルチプレイ?と最初は方向性を考えあぐねていましたが、社交ダンスなどはそもそも同時にいくつものペアが踊るものですし、またミュージカル映画の名作『ウエスト・サイド物語』(1961年)でも「集団vs集団」のダンス対決が描かれています。であれば、せっかく面倒な通信仕様を入れるなら、テトコネならではのマルチプレイ体験を入れたい、と考えて現行の「チームプレイ」と「チーム対戦」の仕様を切りました。P2Pでの対戦仕様をゼロから切るのは、これも20年前の『おじゃる丸 月夜が池のたからもの』(2000年)以来だったかもしれません。

 

協力プレイ(チームプレイ)では、通常1コイン3曲なのが、上手く協力できれば1曲多くプレイできるので、それ目当てに現行プレイヤーが新たなプレイヤーを連れて来てくれるのでは、という目論見もありました。対戦プレイでは3曲固定(勝った側にブーストチケット)なのは、負けた側にマルチプレイのホストがあった場合のホスト委譲仕様を入れる余裕(とバグの可能性)が開発になかったためです。

 

マルチプレイでの楽曲の選択は悩みどころでした。マルチプレイのホストが選ぶ形の実装が一番ラクではありますが、面白みも何もないし、特にまだあまり親しくないグループでは、誰か一人が決定することで感情的なしこりが生じる恐れすらあります。

結果的に、元の楽曲選択UIを活かす形で、全員が楽曲を選び、そこからゲーム側がプレイする曲を決定する、という流れにしました。これなら公平ですし、「どの曲に決まるんだろう!?」というワクワク感がマルチプレイ特有の面白さとしてプラスされます。ちなみに、曲が決まるときの演出は往年のTV番組『ザ・ベストテン』オマージュです。

「プレイするのが恥ずかしい」と言われ続けた本作ですが、マルチプレイはその意識を多少なりとも緩和してくれるのでは、という意図もありました。実際、ゲームセンターでマルチプレイを楽しむプレイヤーを見かけると、苦労してこの仕様を入れて良かったな…と思います。

第3回『テトテ✕コネクト』2021年(2)

今回は『テトテ✕コネクト』の第2回目です。前回はこちら

初公開時のプレス取材ノート(未使用)

開発体制・期間

前回リンクしたラジオでもお話したことですが、2018年当時のタイトーはそれまでメインだった「他社開発タイトルを買ってきて売る」ビジネスから脱却し、自社開発に大きく舵を切る、大規模な方針転換の只中にありました(その後、この方針は撤回されてしまうのですが)。

本作『テトテ✕コネクト』登場以前の『おまつりクエスト ヒッパレQ』(2019年)がその新体制から生み出された第一弾で、アーケード部門を新たに率いたのが『ビートマニア』(1997年)『クイズマジックアカデミー』(2003年)の生みの親として知られる濱野隆氏です。

https://www.4gamer.net/games/448/G044817/20190125069/TN/006.jpg

JAEPO2019『ヒッパレQ』イベント時の濱野氏(4gamerより)


濱野氏は本作開発途中で事情により降板してしまうのですが、初プロデューサーであった筆者はずいぶん氏に助けられた覚えがあります。
そのような機運もあり、「業界にタイトーあり」と改めて認知してもらえるような、「オールタイトー」を目指して本作の制作は行われました。前回掲載した、店舗スタッフとの協業などもそのポリシーの具体例でもあります。既存の音ゲーのアーケード版を作る無難な選択肢もありましたが、店舗スタッフとの協議により導かれた「より体を動かす」コンセプトにそぐわず、より独自色の強い本タイトルに賭けることになります。
 
本作は開発期間約4年と長期に渡るため、ソフトウェアの開発体制は何度か変わっています。初期は東新宿タイトー本社および中目黒にあったイニスジェイ(現リオナ)社を中心として、多くの会社の協力を得て制作していましたが、開発末期はごく少数(企画・アートディレクター・プログラム・モーション・サウンド)の内部制作チーム+数人の個人外注スタッフで完成させています。

※2023/11/17イニスジェイ社について追記


ゲーム筐体の開発は東京・大塚のいちご大塚ビルにあった、機械・電気・筐体デザイン(ミクTのデザインもお願いしています)のスタッフからなるハードウェア制作チームが手掛けており、筆者も定例ミーティング等で週1,2回のペースで足を運んでいました。

ラジオでお話した「最大のピンチ」(実際の最大のピンチはその後に訪れているのですが)である「タッチパネルの端に手が引っかかる問題」は、彼らとパネルメーカーの創意工夫によって克服されています。

jglobal.jst.go.jp

 

専用筐体の業務用ゲームはほとんどの場合、おもに生産スケジュールの関係から、ハードウェア開発がソフトウェア開発に先行します。
筐体は公開(本作の場合は2019年6月のお披露目時)までに意匠登録によってデザインの保護を行うのですが、2020年には中国企業によってさっそく海賊版が作られています。

ロケテスト等の関係でスマホアプリのような「公開と同時に即販売」ができないアーケードゲームは、こういった海外企業の知的財産権の侵害に対して脆弱であることを強く感じる出来事でした。

 

ちなみに、その「テトコネ誕生の地」である大塚オフィスはその後移転したため現存しません。

当時の大塚開発入口にあったマット

 

テトテ✕コネクトのゲームデザイン

「より体を動かす音ゲー」として選定された本企画には、さらに前段階があり、実は「手と足を両方使うゲーム」として当初構想され、のちに足の部分がなくなり、手だけ使うゲームとして企画をまとめた、という経緯があったそうです。

当時の小林氏のメモを元に再現

これを見ると、本作は「手まで拡張したDDR」→「手でやるDDR」へと変遷したゲームであることがわかります。手を使うとしたことで筐体に接近してプレイすることになり「ペアダンス」のアナロジーを獲得、それにより「等身大のパートナー」という本作第2の特徴もなかば必然的に導かれたものではないかと思います。

 

プロジェクトがスタートして一ヶ月後には、鉄のアングルにモニターとスピーカーを固定したゲーム筐体の治具が完成、「等身大キャラが登場」「音楽に合わせてタッチサークルが各所に出現」するプロトタイプを大塚開発でプレイすることが早くも可能になりました。これは汎用ゲームエンジンが登場したからこそ可能なスピード感だと思います。

当時存在した数少ない縦型コンテンツであるPerfumeの縦画面PVなどをモニターに映すことで「等身大キャラ」の破壊力ははやくも開発スタッフや社内に周知された一方、プロトタイプをエアプレイできる(タッチパネルはまだない状態)ようになったことで、ゲーム部分にはいくつかの課題が見つかっています。

  • プレイヤーの身長によって見える範囲がぜんぜん違う
  • プレイヤーの手の長さ(身長にほぼ比例する)によってプレイ可能な距離が違う
  • 上記の理由により、タッチサークルが見えずプレイできない

大画面にこれほど近づいてプレイするゲームは前代未聞ですが、筆者は本作の直前にVRゲームの企画を担当しており、解決すべきは「プレイヤーの視野角」と設定しました。

プレイヤーの視野をほとんど奪う本作は、VRゴーグルやドームスクリーンによる『機動戦士ガンダム 戦場の絆』(2006年)などと同じ、「超臨場感システム」の系列と言えるかと思います。超臨場感システムの研究にはその名前が付く前からの長い歴史があり、例えば、「画像が視野に占める割合と臨場感との関係」は、なんと1979年に以下の論文が発表されています。

画面サイズによる方向感覚誘導効果 ――大画面による臨場感の基礎実験――

「画面サイズによる方向感覚誘導効果」より

こういった過去の知見を活用し、

  • まずプレイヤーの身長を設定できるようにする
  • 次に身長に応じた手の長さ(≒画面との距離)を仮定する
  • もっとも近い(≒身長の低い)プレイヤーの視野角(個人差あり)を設定する
  • タッチサークルなど、ゲームに必要な情報をその視野範囲内に収める
  • 上記条件を満たす様々なノーツ出現方式を試してみる
  • 開発メンバーがそれぞれの方式でプレイし、ミス率(≒見落とし率)が少ない方式を選抜

といった流れで製品版の仕様を決定しました。

最終的に採用したガイド仕様(他にも、振付での視線誘導なども行っています)

この、「実際作ってデータを取り、そのデータによって決める」という手法は、本作ではキャラクターデザインなど至るところで実施しており、それによってオリジナルゲーム特有の独りよがりや完成度の低さを多少なりとも回避できたと考えています。

社内でのテストプレイ募集チラシ

プロデューサーである筆者自らがゲームメカニクスに介入したのはこの部分がメインで、あとはプレイ開始までのゲームフロー、楽曲選択UI、あとから追加したマルチプレイや言語選択部分の仕様を手掛けています。

ゲームフローや楽曲選択時に注力したのは「なにごともパートナーと常に一緒に選択・行動する」ことで、例えばそれぞれ独自モーションで見せるステージへの移動シーン(楽曲選択兼用)などは最低限の自然な演出ながら、スタッフのこだわりによって最大限の効果を発揮しているのではないでしょうか。

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第2回『テトテ✕コネクト』2021年(1)

今回は新しめのタイトル『テトテ✕コネクト』の第1回目です。稼働中タイトルでもあり、主にラジオでお話した内容+α、具体的には「自分で考えた内容」「どの会社でもありふれている手法」「ラジオ等で公開済の情報」での構成となるかと思います。

bayfm『A-LABO INDEX』の2020年3/3、3/10放送回

【特別インタビュー】株式会社タイトー 制作プロデューサー 手塚 忠孝様<前編> - YouTube

【特別インタビュー】株式会社タイトー 制作プロデューサー 手塚 忠孝様<後編> - YouTube

 

タイトル 『テトテ✕コネクト』
プラットフォーム 業務用ゲーム機

稼働開始日 2021年12月5日

ゲームジャンル リズムアクションゲーム(4人までの協力、チーム対戦プレイあり)

2023年現在のプレイ環境 全国のタイトーステーションラウンドワンで稼働中

『テトテ✕コネクト』公式サイトより

 

当時の市場と企画の成り立ち

2018年の春ごろ、あるVRゲームの企画が頓挫したため手が空いていた自分に、「業務用の新作音楽ゲームのプロデュースを」というオファーがあり、急遽立ち上がった企画です。そのためか、結果的にそれまでのVR研究の応用を随所に感じる内容に仕上がったかと思います。(後述予定)
市場環境としては、2018年はまだコロナ禍の前であり、ゲームセンターもまだ今ほど悪い経営環境ではありませんでした。店舗縮小の下げ止まりが見えていた他、特に音楽ゲームに関しては僅かながら市場拡大傾向でもありました。この企画時期にセガ『オンゲキ』、コナミ『ダンスラッシュ』が登場し、これらとの競合が想定されていたほどです。

本作制作中に制作が発表され、本作ロケテストとまったく同時期に稼働直前イベントを行ったマーベラスWACCA』も、おそらくは似たような市場認識の上で新規参入を果たしたものと思われます。

「アリエスの小部屋」テトテ×コネクトページ、およびWACCA公式サイトより


新たに音楽ゲームを作るにあたり、自分に業務用音楽ゲームの知見が一切ないことが最初のネックとなりました。当時の上司こそ伝説的な音楽ゲームPDであり、『グルーヴコースター』という先行プロジェクトもあったものの、すでに業務用音楽ゲームの歴史は20年以上に及んでおり、付け焼き刃の知識ややり込みで作った製品で10年20年選手であるプレイヤーを納得させるのは不可能です。
幸いタイトーには店舗運営部門があり、自らも音ゲープレイヤーでもある店舗スタッフの豊富な知見を提供してもらうことで、地域や立地、季節や曜日や時間帯などの諸条件にも目配せしたプレイヤー像や市場動向を掴むことができました。店舗スタッフには開発途中バージョンにも都度協力を依頼し、完成に至るまでの羅針盤の役割を果たしてもらっています。
彼ら彼女らの協力がなければ、特に「タッチパネル音ゲーのジンクス」に挑む最後の踏ん切りはつかなかったかもしれません。

ミーティングで使用した資料の一部


店舗スタッフとのヒアリングやミーティングを経た結果、「より体を動かす音ゲー」のニーズにフォーカスすることに決まり、その他新企画に必要な項目を採点表の形でまとめました。次に社内外から募ったゲーム企画をその採点表と突き合わせることで企画とニーズの整合性を確認、そこで最高点タイとなったのが本作『テトテ✕コネクト』の元になる企画です。
原案は現Gentle Giantsの小林帝久氏によるもので、「大画面タッチパネルで等身大のキャラクターと一緒にゲームをする」コンセプトは最初から完成していました。

等身大のパートナーが目前にいることで、自然に「より体を動かす」ことを実現できる見込みが立ち、ここからプロジェクトは具体的なゲーム開発フェーズに入ります。

 

当初の稼働開始は2019年を予定していましたが、実際の市場投入はそのさらに2年後、2021年の年末までずれ込むことになるとは、コロナ禍以前の当時、誰も想像していませんでした。

2019年6月のロケテストの様子を伝えるタイトー社内報より

 

第1回『クライング 亜生命戦争』1992年

今回から始まった、SiFi-TZKのゲームデザイン再訪記。

なにをやるかはこのブログについてを見ていただくとして、最初の一本は、知る人ぞ知るこのゲームから。

(2023/05/13に、本作のディレクター磯田重晴氏からいただいた情報を追記)

 

タイトル 『クライング 亜生命戦争』
プラットフォーム メガドライブ

発売日 1992年10月30日 セガ・エンタープライゼスより発売

ゲームジャンル 横スクロールシューティングゲーム(2人同時プレイ可能)

2023年現在のプレイ環境 実機、海外Switch(SEGA Genesis Classics)、Steam

クライング 亜生命戦争
『クライング 亜生命戦争』画像
セガ バーチャルコンソール対応タイトルのページより

 

当時の市場と企画の成り立ち

本作は元々、電話回線を使って遠隔地とデータをやり取りできる周辺機器「メガモデム」をアピールするための企画でした。
現在のネットゲームのように「離れた場所にいるプレイヤーと2人同時プレイで遊べる!」がウリだった筈が、開発途中にメガモデムの仕様が半二重通信しかサポートしていないことが判明、急遽ただの2人プレイ用シューティングゲームとしてリリースされることとなったそうで、この時期のセガでは珍しいノンIPの家庭用オリジナルシューティングゲームセガ内部開発として唐突にリリースされたのは、上記の事情に依ります。
本作のゲーム部分は実は外部制作チームからの持ち込みで、セガ側の担当者marsh氏によると、最初の打ち合わせで「メタボールで作ったキャラが動き回るシューティング」というコンセプトが伝えられたそうです。その制作チームの高い技術力によって、本作は巨大キャラに多関節アニメーション、なめらかなモーフィングを行うキャラなどなど、当時のビッグタイトルと比較してもそん色ない映像表現を実現しています。

https://twitter.com/gorry5/status/1177217864320765953

 

退廃的な世界観は発色数に制限のあるメガドライブのグラフィックで更に画面の印象を地味にしていますが、描き込みは細かく、なめらかなアニメーションと合わせて熟練の職人芸が堪能できる作品となったのではないでしょうか。

 

開発体制・期間

いまはなき大鳥居のセガ本社から徒歩10分ほどの場所にある、東糀谷のPKビル(2023年現在は現存しない)にあったセガCS1研で本作は開発されています。自分がプロジェクトに参加した1992年4月末では森林面(3面)が動いており、街面(2面)、洞窟面(4面)、海面(5面)などが順に制作されました。ボスが出ない練習ステージとしての意味合いが強い1面はかなり後になってから作られましたが、これにはセガ・オブ・アメリカからの「面をもっと増やせ」という要求から急遽追加されたもので、同年7月末くらいにゲームはほぼ完成していました。

先ほど引用したツイートのリプライ欄によると、X68000の『スターウォーズ』(1991年)やSuper32X/サターンの『ステラアサルト/SS』(1995/1998年)などで知られる土田康司氏や後藤浩昭氏も本作のプロトタイプ制作に参加されていたようですが、自分が参加したころは磯田重晴氏がセガに常駐して一人でプログラムを担当していました。磯田氏は本作以前にX68000版のファンタジーゾーンイースの移植に参加し、のちにセガサウンド子会社ウェーブマスターの重鎮として活躍しています。本作当時の磯田氏はフリーランスとして氏の私物のX68000セガに持ち込んでプログラムを組み、自家製I/FボードでパラレルI/Fでメガドライブ開発機に接続して動作させる、という作り方でした。磯田氏の兄、健一郎氏も作曲等で本作に参加しています。

SHARPのページより

ちなみに、これはかなりイレギュラーな開発環境で、他の同時期のCS1研のゲームは普通にICE(CPUの動作をエミュレートし、内部動作を可視化・制御できる機器。高価)を使用して開発されています。

本作のグラフィック作成はCS1研のデザイナー陣ですが、大作『ファンタシースター 千年紀の終りに』(1993年)の制作期間と重なったこともあり、一部のスタッフのみの参加となっています。実作成にはおもにMacintoshが使われており、セガ内製のグラフィックツールである「デジタイザー3」が使われています。また、洞窟面や海中面などに見られるムニュムニュしたCGの敵などは、グラフィックの松浦氏がSGIIndigo?Iris 4d)を使って作成していたことを覚えています。

本作のスタッフロールに「DIRECTED BY」で掲載されるディレクターは磯田重晴氏(Kazumi Nasu名義)であり、本作は「セガオリジナル」というよりは、磯田氏ら外部スタッフの作品をセガCS1研が協力して作り上げたもの、と言えるかもしれません。

 

(以下2023/05/13追記)

X68000でのプロトタイプ版のゲームデザインには、チームの前作であるX68000イースの移植スタッフの意見が反映されているそうです。

磯田氏以外のオリジナルスタッフでメガドライブ版に参加したのは中川徹(TONBE)氏、妹尾真一(Senoko)氏、磯田健一郎(Hiroshi Mikatabara)氏で、中川氏がゲームデザイン・メインプログラム・サウンドドライバ・各種ファームウェアおよび開発ツールとゲームの1/3ほどのステージ実装を、妹尾氏がメタボール等でのオブジェクト制作を、磯田健一郎氏が作曲とシナリオを担当されたそうです。

磯田重晴氏はディレクターのほか、SEの制作とBGMのデータ化、ゲームの2/3のステージ実装も手掛けており、開発機であるX68000から繋ぐメガドライブ実機の改造など、ハードウェアも担当されています。

 

『クライング』のゲームデザイン

本作は操作系がかなり特殊で、攻撃・防御の双方とも「方向キーのみでの、自機の移動とオプションの方向決め」を要求される、敷居の高いデザインと言えるかと思います。

通常ショット:ボタンの連打。オプションからも同時発射

溜め撃ち:ボタンのホールド。ホールド中はオプションからも弾は出ない

防御:敵弾をオプションで消すことができるが、オプションの位置制御は移動と兼用のため難しい

パワーアップ:4種類(内容は選択した自機による)3段階。飛来するアイテムの取得のみで行われる

本作の先行タイトルとしては、自機の溜め撃ちや無敵のオプションのパワーアップ、そのオプションの動きなどはアーケードの『R-TYPE』(1987年)や『ラストリゾート』(1991年)などの延長にあり、自機の移動と独立して任意の方向にショットが発射できるメカニクスはループレバーの『怒』(1986年)や、メガドライブで移植版も発売された『ロストワールド』(1988年)の系譜に連なると思われます。当時のCS1研には他タイトル研究用に家庭用NEOGEOがあり、『ラストリゾート』もよくプレイされていました。

『クライング 亜生命戦争』に至るシューティングゲームの系譜(私家版)

ゲームの難度調整は、オプションの撃つサプウェポンの強さ、及び敵の種類と数、出現場所の調整によって行われました。

弾避けに自信のあるプレイヤーはサプウェポンに赤の誘導レーザー、または青の全方位弾を選ぶことで、本作最大の難関「オプションで敵を狙う」ことが不要となります。青の誘導弾は防御に強く、ゲームに慣れるまではこの武器で「とにかく全方向で敵弾を消す」ことで先に進めるようになります。

各ゲームの操作方法 ※選択する武器によってショット方向が決まっていることもあります

自在にオプションの方向が操れるようになったら、個人的なオススメはイエローの連射弾。多くのステージで爽快なプレイが楽しめるかと思います。

『クライング 亜生命戦争』Steam版より

本作は敵弾の速度が遅いこともゲームデザイン上の特徴で、油断するとあっという間に画面が敵弾だらけになるため、「操作に習熟して、敵弾をオプションで消し続ける」or「敵の出現位置を覚えて、撃たれる前に敵を倒す」攻略が有効です。どちらも繰り返しプレイを前提とした、家庭用向けのゲームデザインと言えます。

1ボタンのみのシューティングゲームにどこまでの自由度とメカニクスを詰め込めるか?という観点から本作をプレイしてみるのも面白いのではないでしょうか。

 

(以下2023/05/13追記)

前述の通り、本作のゲームデザイナーと呼べるのは、中川徹氏と磯田重晴氏になります。プロトタイプ版の操作は2ボタンで、ショット以外のボタンは「押している間はオプションが自機から離れて、自機の周りを自動で回転する」機能だったそうです。

想像すると、やはり『R-TYPE』や『ラストリゾート』、よりラディカルなら『ヘルファイアー』(1989年)やサンダーフォースシリーズ的な、「正面攻撃とそれ以外への攻撃と防御とを随時切り替えていく」ゲームだったように思えます。「多方向攻撃と防御が一体となった操作系を駆使する」本作製品版の独特の操作感は当初から意図されたものではなく、制作の過程で生み出されたもののようです。

 

SiFi-TZKの役割とこだわり

1992年の新卒で入社し、「シューティングゲームがやりたい!」とアピールしていた筆者は、新人研修後の同年4月末ごろからプロジェクトに参加しています。
新人の仕事はROM焼き(書き換え可能なEP-ROMにプログラムを書き込んだり消去したりする仕事)が主で、他にゲームをプレイしてのバグ報告、後にはゲームの難易度に関しての提案などを行っていました。

自分の提案が採用された例としては、敵がほぼ弾を撃たない練習モード「PRACTICE」があります。
元々は「これだけ難しく地形も敵なゲームなので、EASYは敵弾ナシでもいいくらいです!」という提案でしたが、「それでエンディングまで行けてしまうのは問題」となり、5面で終了するPRACTICEが新設された、という経緯があります。

『クライング 亜生命戦争』エンディングより

スタッフロールには、ALSO THANKSとして「SiFi TZK」が掲載されており、これが自分の初クレジット作品となります。

セガの期待作『ランドストーカー』(1992年)の影に隠れて満足な宣伝もなかった本作は、残念ながら売れ行きは芳しくなく、ゲームショップのワゴンで新品1000円程度で売られるようになりました。自分の初仕事は誇らしくもほろ苦い経験でもあります。

 

エピソード

街面のビルを壊して登場するボスの「ピーケイ」は当時CS1研が入っていた「PKビル」が、森林面に登場するカニの多関節キャラの「ナカガー」は当初のメインプログラマ中川氏(または当時のAM1研の中川部長)が、同じく森林面ボスの「イナティソ」もCS3研の押谷部長(OSITANIを逆にしてINATISO)が、それぞれの元ネタです。こういったネーミングのお遊びは当時のセガでは当然のように行われており、本作を制作していた当時のCS1研の金成部長も、過去に参加していた『スペースハリアー』(1985年)で敵キャラ「カナリー」として登場しています。

『クライング 亜生命戦争』取扱説明書より

本作の開発中タイトル「Hazard」は日本では商標の関係から『クライング』(磯田健一郎氏が別名でケイブンシャから出版した同名小説のタイトルから)になり、海外では「Hazard」だけではわからん、ということで『Bio-Hazard Battle』となっています。カプコンの大ヒットタイトル『バイオハザード』(1996年)に先駆けて「バイオハザード(生物災害)」をタイトルに冠したゲームでもあります。

現在購入できるSteam版(海外バージョンとなっている)の価格はなんと¥98!!(2023年4月現在)低音の出るスピーカーかヘッドホンを用意して、この徹底して人間が出てこない、敵も味方も虫と魚と怪生物ばかりが登場する独特な世界を楽しんでみてください。

 

(以下2023/05/13追記)

プロトタイプ版の当初の仮タイトルは『GA(Genetic Algorith)』だったそうです。

 

最後に、今回の記事作成にあたって、元CS1研の石川さん、安東さん、戸谷さん、そして本作ディレクターの磯田重晴氏に多大なご協力をいただきました。ありがとうございました!お礼は、なにか旨いものでも。

言うまでもありませんが本稿の文責はSiFi-TZKにあり、内容の間違いは筆者に非があります。間違いを見つけた方はご指摘をいただけますと幸いです。

 

今回は駆け出しの新人時代の話で、ブログの主目的の「現場でゲーム仕様をどう決めているか」はほぼ未達成でした。次回以降は改善されます(本当です…!)

次回は、現代に戻って『テトテ×コネクト』(2021年)を取り上げます。